幸手 幸せ物語


幸手 幸せ物語

第1話 「ボクは、ぷー」

第2話 稲荷神社のはなし

第3話 天神神社のはなし

第4話 幸宮神社のはなし

第5話 雷電神社と御嶽山のはなし


 第一話 ボクは、ぷー

 ボクは、ぷー。雄(おす)犬です。「えっ? 変な名前だって」
しかたがないよ。ボクが、おならをしちゃったから、この名前になっちゃったんだ。
 あれは、ボクが生まれてから、一ヵ月ぐらいだったかなあ・・・。そのころ寝ぐらにしていた*稲荷(いなり)神社で、「おなかがすいたよー」って泣いていたんだ。そしたら、小学生の男の子たちが、学校から帰ってきたんだ。
「あれ? あそこに子犬がいるぞ」
「本当だ」
「腹すかしているんじゃないの」
そう言って、男の子たちが、ボクのところに来たんだ。ボクは、いっしょうけんめい、「何かちょうだい」ってお願いしたんだ。
「あっ、おれ今日の給食の牛乳があるんだ」
(やったー)
きっとボクは、よだれが出たと思うんだ。
1人の男の子が、拾(ひろ)ってきた空き缶に、牛乳を入れてくれたので、ボクはあわてて飲んだんだ。
あまり夢中(むちゅう)だったから、咳(せ)き込(こ)んじゃったんだよ。
「ゲホ、ゲホ・・」
“プー”
口からだけなら良かったんだけど、よけいなものをお尻(しり)から出しちゃった。
 だから、「ぷー」なんだって。

 それからボクは、(神様犬(かみさまけん)とも呼(よ)ばれているんだ。
ボクが住んでいるところは、埼玉県の幸手市(さってし)というところ。
「幸せを手にするまち」
いいでしょう、この地名。
 幸手には昔から、こんな言い伝えがあるみたいなんだ。
「幸せの十社(神社)をすべて詣(もう)でれば、幸せを手にできる」ってね。
  たまたまボクは、決まった寝ぐらがないから、静かな神社の軒下(のきした)で過(す)ごしていることが多いんだけど、この十社でも、すべてお世話になっていたんだ。
 それで、本当に偶然(ぐうぜん)なんだけど、いろいろな願いが叶(かな)えられた時に、ボクがいたんだ。
だから皆(みんな)が、「あの犬がいる時に不思議(ふしぎ)なことがおこる」ってことになって、「きっと、神様が姿を変えているに違(ちが)いない」ってうわさが広まって、神様犬だって言われるようになっちゃったんだ。
でも、本当に不思議なことがあったんだよ。

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 第二話 稲荷神社のはなし

 最初の出来事は、稲荷(いなり)神社であったんだ。
その神社の境内(けいだい)は、いつもボクの名付(なづ)け親の小学生たちが、遊ぶところなんだけど、その時は、なぜか二人とも、元気がなかったんだよ。
ボクも、ボール遊(あそ)び(サッカーと言うらしいけど)が大好きで、小学生たちと、ボールの追いかけっこをすることが、楽しみだったんだ。
でも、「今日はちょっと変だぞ」って思ったんだ。
ボールを蹴(け)ってもらっても、・・ちょろちょろ。
だから、すぐにボールに追いついちゃう。
「もっと、いつものように張(は)り切ってやろうよ」
ボクは、そう言って吠えたんだけど、やっぱり元気がないんだ。
「ねえ。シュウちゃんは、まだ治(なお)らないのかなあ」
一人の男の子が言ったんだ。
「わかんねえな。『熱(ねつ)が出て下がらない』って先生は言ってたよな」
別の男の子が心配(しんぱい)そうに言いました。
そういえば、一番元気だった男の子が、(ここしばらく遊びに来てないなあ)と思っていたんだけど、どうやら病気で寝込(ねこ)んでいるようでした。
(そうか、だから元気がないんだ)と、ボクは思ったんだ。

 次の日ボクは、匂(にお)いをたよりに、シュウちゃんの家まで行ってみたんだ。何てったってボクは犬だから、シュウちゃんの家はすぐにわかったよ。
 ボクがひとつの窓(まど)を見ていると、家の中から「ゴホン、ゴホン」って苦しそうな咳(せき)が聞こえたんだ。
(あっ、シュウちゃんだ)
ボクはすぐにわかった。そして、大声で吠(ほ)えたんだ。
「シュウちゃん!シュウちゃん!」って。
「あら?どこの犬かしら」
シュウちゃんの家の窓が開いて、おかあさんが顔を出したので、
「ボクだよ。ぷーだよ」って、もう一度吠えたんだ。
「あっ、ぷーだ」
その時、家の中からシュウちゃんの声が聞こえたんだ。
「ぷー??」
おかあさんが、不思議(ふしぎ)そうな顔をしてうしろを振(ふ)り返(かえ)ったんだけど、少ししてから、シュウちゃんが顔を出したんだ。
「あらあら。起きても大丈夫(だいじょうぶ)なの」
おかあさんが、心配して、シュウちゃんに話しかけました。
「この犬ね、稲荷(いなり)様(さま)にいる犬なんだ。僕がぷーって名前を付けたんだ。おならをする犬なんだよ」
(あーはずかしい)

ボクは、穴(あな)があったら入りたかった。
だけど、シュウちゃんの顔が見られたから、我慢(がまん)したんだ。
「そう、だから、『ぷー』っていう名前なのね」
おかあさんが、納得(なっとく)したようにうなずくのが見えました。
その後、かなり笑っていたけどね。
「シュウちゃん。友達(ともだち)が心配しているよ。早く元気になってね」
ボクは、シュウちゃんに話しかけてみたんだ。そしたら、
「うん。すぐ元気になるからね」
シュウちゃんが、そう言ってくれたんだよ。
(あれ?ボクのことばがわかったのかな?)
まあ、いいや。気持ちは通(つう)じたみたいだから。

 それから二、三日して、ボクがいつもの軒下で昼寝(ひるね)をしている時でした。
「おーい!ぷーーー」
元気なシュウちゃんの声が聞こえてきたんだ。
ボクは、すぐに軒下から走り出て、思いっきりシュウちゃんを舐(な)めちゃった。
例の三人組の二人もいっしょでした。
「ぷー、ありがとな。元気になったよ」
シュウちゃんは言いました。
「えっ、何のこと?」
男の子の一人が、シュウちゃんに訊(き)きました。
「ひ・み・つ」
シュウちゃんは、ボクにウインクをしただけでした。
「なんだよ、ひみつって」
男の子は、少しむくれているようでした。そして、
「おれたちは、全然シュウのこと、心配していなかったぜ。なあ」と、もう一人の男の子に向かって言いました。
「そうだよ。もう少し寝ていてもよかったぜ」と、もう一人の男の子が言いました。
ボクは、男の子たちが持ってきたボールと遊びながら、三人の話を聞いていたんだ。
そして、思ったんだ。
(友達って、いいなあ)って。

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 第三話 天神神社のはなし

 ボクが寝ぐらを変えてきたのは、食べるものを探(さが)すため。
 稲荷神社では、あの小学生たちが、給食の残りを、少しずつ残して持ってきてくれて、本当に助かったんだ。
だけど、学校が休みの日が続くと、食べ物を探さなくてはいけないんだ。
やっぱり生きていくのは大変なんだよ。

 そういうわけで、次の寝ぐらにしたのが、*天神(てんじん)神社というところ。
なんたって、神社の前にパン屋さんがあって、食パンの耳を食べることができたんだ。
 ここでも、不思議なことがあったんだ。

 ある日、ボクが拾ってきた食パンの耳を、カラスたちが横取りにきて、そのカラスと格闘(かくとう)していた時なんだけど。
一組の家族が絵を描(か)きに来ていたんだ。
 小学生の兄弟と、お父さんとお母さんの四人でした。
学校の宿題だったと思うのだけれど、大きな画用紙を用意してきて、何を描こうか迷(まよ)っているようでした。

「お父さん、遊んできていい?」
案(あん)の定(じょう)、飽(あ)きたらしくて、お兄ちゃんが言いました。
お父さんは、
「おいおい、お前の宿題の絵を描きにきたんだぞ」って、笑いながら言いました。
「僕も遊びたい」
弟くんも、すかさずお兄ちゃんの声援をしました。
「しかたがないな。少しだけだぞ」って、お父さんが言いました。

 二人が、ボクのところにやってきたんだ。
(わーい、ボクも遊べるぞ)
そう思ってボクは、わくわくしてボールが出てくるのを待っていた
んだ。
でも、今回はボールが出てきませんでした。
だけど、追いかけっこをすることになったんだ。
ボクが鬼で、二人を追いかけて遊んだんだ。
 そのころ、二人のお父さんとお母さんは、神社にある木々を、絵の具で描いていました。
たくさんの木が、画用紙にいっぱい描かれていました。

そこに、ボクたちが飛び込んでいっちゃったんだ。

 弟くんがつまずいて、絵の具のパレットに手をついて、いきおいあまって、画用紙にも手をついちゃったんだよ。
(まずい・・)
ボクは、とっさに思いました。
画用紙には、くっきりと弟くんの手形が付いてしまいました。
それも、二つも。
(まずい、まずい・・)
ボクは、さらに思いました。
お父さんとお母さんは、びっくりして、ことばも出ない様子(ようす)でした。
弟くんは、今にも泣き出しそうでした。

 でも、この時ボクは、絵を見て思ったんだ。
(あっ、手形が葉っぱみたいに見える)って。
だから、大声で、「葉っぱだ。葉っぱだ」って、吠えたんだ。
すると、お兄ちゃんが、

「お父さんごめんね。だけど、これ、葉っぱに見えない?」
(あっ、ボクと同じ考えだ)
「うん・・なに?」
お父さんとお母さんは、二人で顔を見合わせ、手形の付いた絵を見ました。
「なるほど、手形が葉っぱか・・」
お父さんが、うなずいて言いました。

 それから、たくさんの手形が葉っぱに変わっていきました。
大きい葉っぱ、小さい葉っぱ。緑の葉っぱ、赤い葉っぱ。
家族がひとつになって、幸せの森が出来上がりました。

(イラスト/幸せのヒント応募作品より)

「ありがとね」
お兄ちゃんは、ボクに向かってウインクをしました。
そして、帰っていきました。

(あっ、ボクの食パンの耳!)
それまで忘れていたボクの食事を思い出して、寝ぐらに戻ったんだけど、見事、カラスたちに食べられてしまっていたんだ。
 がっかりしていると、そこにさっきのお父さんが戻ってきたんだ。
そしてボクに、紙にくるんだおにぎりをくれたんだよ。
ボクは、夢中で食べたんだ。
食べ終わったあと、ふと紙を見たんだ。
そこには、下書きの絵が鉛筆(えんぴつ)で描いてあったんだ。
完成した絵とそっくりなものだったんだよ。

 ボクは、
(お父さんは、わかっていたのかなあ)
そして、
(家族って、すごいなあ)って思ったんだ。

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 第四話 幸宮神社のはなし

 ボクの住んでる幸手市は、桜で有名なんだ。
そして、「幸手」という地名から、「幸せ」というものを街(まち)おこしに使っているようなんだ。
 最近(さいきん)、幸せカフェ「アミ」、なんていう喫茶店(きっさてん)もできたんだよ。
 ここでは、有名な「さくら愛ス」も食べられるよ。

 幸せカフェ「アミ」

 「幸せ」が付く神社もあるんだ。
それが、幸宮(さちみや)神社っていうんだ。
今度は、幸宮神社でのはなしをするね。
 この神社には、*大杉(おおすぎ)神社と*八幡(はちまん)神社、そして*八坂(やさか)神社という三つの神社があるんだ。
幸手の総鎮守(そうちんじゅ)なんだって。
 だからここには、宮司(ぐうじ)さんもいて、時々、若奥さんからご飯をもらっていたんだ。
ここから近い商店会の通りに、銀行の駐車場があって、そこでは、毎月第一土曜日に、「夕市」という市場(いちば)がたつんだ。
幸宮神社の若奥さんのご飯もよかったけど、この夕市の日が、一番の楽しみだったんだ。
魚屋さん、八百屋さん、おとうふ屋さん、酒屋さん、パン屋さんなんかがお店を出していて、お いしいものにありつけるんだ。
 朝市   夕市

 ここでもボクの名前は、稲荷神社で遊んだ小学生たちも来ていたから、すぐにばれちゃって、皆から「ぷー」「ぷー」って覚えられちゃった。
 ここの食べ物の一(いち)押(お)しは、いろいろな物を売っているから、本当は何屋さんだかよくわからないけど、そこで売っている「カステラ」が絶品(ぜっぴん)なんだよ。
このお店の太ったおばちゃん(失礼)が、いつもボクに、味見用(あじみよう)の切れ端(はし)のカステラをくれるんだ。
 なんでも、有名なコーヒーチェーンの社長さんが口にしたらしくて、それが、雑誌にも紹介されたらしいんだ。
 おいしいよー。

 ある年の、四月の第一土曜日。
そう、幸手は桜が有名だって言ったでしょう。
権現堂(ごんげんどう)っていう桜並木の堤(つつみ)があって、そこには、約一キロにわたって千本の桜のトンネルができるんだよ。
毎年、五十万人以上のお客さんが来るんだって。
その日も、桜堤から幸手駅に向かうお客さんで、久しぶりに夕市が混雑(こんざつ)していたんだよ。
もちろん桜堤にも、幸手の特産品(とくさんひん)を販売しているテントがあるけど、夕方になると閉めちゃうんだ。
だから、遠くから来たお客さんは、幸せカフェ「アミ」で、買い物をする人も多くなったみた いなんだ。

でも、この夕市では、夕食用のお惣菜(そうざい)を売っているお店が多いんだけどね。

偶然の再会ってあるんだね。
ボクが人ごみの中をうろうろしていたら、突然(とつぜん)、女の人にしっぽを踏(ふ)まれたんだよ。
「いたい!」
 ボクは、大声で泣いたんだ。人間には(キャイーン)と聞こえるらしいけど・・。

皆が、いっせいにボクたちを見たんだ。
 その女の人も慌(あわ)てたみたいだけど、その時近くから、「久しぶりー」って、大きな声が上がったんだ。
どうやら、その女の人の、高校時代の先輩だったみたいなんだ。
五年ぶりぐらいだったらしくて、先輩の男性は、会社の関係で別の街に住んでいるんだって。
久しぶりに幸手にきたみたいでした。
「しっ、しっ」って、その先輩が言ったから、ボクはにらみつけたんだけど、女の人がかわいそうだから、その場から離(はな)れてあげたんだ。
その後も、ずいぶん会話がはずんだみたい。
最後まで夕市にいたみたいなんだ。

それから、半年くらいたったある日。
ボクが、幸宮神社を散歩していると、仲良しのカップルがお参りにきたんだよ。
それが、この時の先輩後輩で、ボクは、お参りしている二人のことばを聞いたんだ。
「私たち結婚することになりました。二人の出会いの場を、ありがとうございました」って。

 そして、ボクに気づいたらしくて、 「サンキュー」って、先輩が言ったんだ。

 幸手(幸せの手)で結ばれた縁(えん)なんだね。
 どうりで、
 いつまでも、手をつなぎっ放(ぱな)しだったはずだ・・。


(つづく)
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 第五話 雷電神社と御嶽山のはなし

 ボクは、雷(かみなり)が大嫌(だいきら)いなんだ。
 でも、雷によって、奇跡(きせき)が起きることもあるんだね。
今度は、雷電(らいでん)神社と御嶽山(おんたけさん)であったはなしをするね。

雷がきらいだから、雷除(よ)けの神様がいるって言われている、雷電神社に引越ししたんだけど、すごい経験をしたんだよ。
そこにも、元気な小学生が遊びに来ていたんだ。
もうその頃は、小学校でボクのことが話題(わだい)になっていて、ぷーっていう名前と、サッカーが好きだということが広まっていたみたい。
この時も、三人の小学生が、ボクの遊び仲間だったんだけど、その中の一人は、とっても口数の少ない子だったんだよ。

ある日、その口数の少ない少年とサッカーをしていたら、急に空が暗くなって、すごい雨が降ってきたんだ。
ボクたちはすぐに、軒下に避難(ひなん)したんだ。
その時、
“ピカ!! バリバリバリ!”って、雷が御嶽山という近くの小山(こやま)に落ちたんだ。
(雷除けの神様がいるのに、どうして・・)

ボクは一瞬(いっしゅん)、体がビクッと感じたんだ。

そして、雷の音にびっくりして、耳を塞(ふさ)いでいる少年を見たんだ。
(おかあさん。怖(こわ)いよ)
ボクは、不思議なことに、この少年の心の叫(さけ)びがわかったんだ。
 さらにボクは、この少年を見つめたんだ。

 すると、この少年の胸のうちが、わかるようになったんだよ。
 この少年は、つい先日、母親を交通事故で亡くしていたんだ。
それがもとで、この少年は、ことばを失ってしまっていたんだ。

 一月前のことだったみたい。
少年とその母親が、近くの商店街に、買い物に行った日のことでした。
少年は、大好きなマンガ本を買ってもらえるので、いっしょについていったようなんだ。
そして、・・・

 夕食の買い物を済(す)ませ、もちろんマンガ本も買ってもらって、母と子は家に向かって歩いていました。
少年は、待ち切れずに、マンガ本を歩き読みしていました。
「お前危(あぶ)ないよ。あの犬も危ないねー」
母親が言うので少年が目を上げると、一匹の子犬が、国道沿いを二人に向かって、よたよたと歩いていたのです。
(別に大丈夫(だいじょうぶ)だよ)
少年は心の中で思い、またマンガ本を読み始めました。
「あっ! 危ない。」
二人の横を通り過ぎる時に、子犬が国道側に逃げてしまったのです。
母親はとっさに子犬を連れ戻(もど)そうと思ったのでしょう。

国道に飛び出してしまったのです。

ブレーキは間に合いませんでした。

目の前で起きた事故。
少年は、ショックにより、ことばを失ってしまったのでした。
母親は、病院で息を引き取ったようです。
子犬は、その場で死んでしまったみたいです。
後日、その現場(げんば)には花束(はなたば)が備(そな)えられました。そして一匹の犬が、毎日花束のそばに寝そべっていました。
メス犬でした。
子犬の母親でしょうか。
車の列(れつ)が途切(とぎ)れると、時々顔を上げて、ひくひくと鼻を鳴らしていました。
においがないことを知ると、あきらめて顔を元に戻しました。
それが、毎日、何度も続いていたのでした。

 二つの家族が幸せを失(うしな)いました。
少年はその夜、家族ですき焼きを食べるはずでした。
子犬はすぐに、母親のお乳(ちち)をもらうはずでした。

 ボクは目を閉じてみたんだ。

そして、心の中で、この少年の母親と子犬を探してみたんだ。
母親は笑っていました。
そして、母親のひざの上で、子犬が甘えていました。
(教えてあげなくちゃ)
そう思ってボクは、そっと少年のほほを舐(な)めてあげたんだ。
「・・・・・・」
少年の口が、かすかに動いたようでした。
「・・ぷー・・」
少年が呟(つぶや)いたんです。
「ぷー、おかあさんがいたよ!」
少年が、叫(さけ)んだんだよ。

 そこに、少年の友だちがやってきました。
 そして、びっくりしたように少年に言いました。
「おい、お前今、しゃべったよな」
「おれも聞いた」
友だちが口々に話しました。
「本当だ。しゃべれた」
少年は、しっかりと言いました。
少年に笑顔が戻りました。

 ボクが、それから出向いた先は、国道沿いの一軒の家。
そこには、先日子犬を失った母犬がいました。
 ボクは、静かに話しかけたんだ。
「お母さん、あなたのお子さんは、天国で元気にしてましたよ」
「何言ってるの!私の息子は人間に殺されたのよ!」
母犬は大声でボクを詰(なじ)ったんだけど、静かに続けたんだ。
「あの時の人間のお母さんと、いっしょに幸せに暮らしています」
 ボクは、続けました。
「あなたの息子さんも、人間のお母さんも寂(さび)しがっていません。なぜなら、いつもあなたたちのそばいるからです」

「そう。あなたのこころの中にも・・・幸せといっしょに」

(つづく)
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